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ナポリ

思ったよりも今回は大変だった。丸4日半ばっちり肉体労働をしてきた。最初の4日は本当に朝から晩までだった。基本的には肉体労働でも、常にかなり細かい神経を使う作業なので、毎日仕事が終わるとくたくたで、歩くのもやっとというくらいだ。
またギャラリーでのドローイングかと思いきや、アルフォンソ・アルティアコはただの仲介役で、仕事は個人邸の壁のドローイングだった。2人で縦4m×横5m近くのドローイングを仕上げるのはなかなか大変だった。いろんな手違いや、段取り不足、予定外の展開などありつつも、ピーターと2人で無事乗り越え、作品を仕上げてきた。今回もかなり面白い経験ができた。
ナポリの隠れた一面を見れたのも良かった。ナポリの街の外見は、どこも汚くてごちゃごちゃしている。今回仕事をした家も、薄汚くてどんよりと暗いいかにも危なそうな通りにあった。最初に家の中に一歩入るまでは、本当にこんな所で働くのかと疑ってしまったくらいだ。
でも一歩家に入って驚いた。全くの別世界。天井が高く広々とした部屋、アンティークな家具、金箔で縁取り装飾されたドアや壁(よく近くで見ると実際に一枚一枚金箔が貼られているのが分かった)、そしてクラッシックな絵画と彫刻。明るい光が広い部屋一杯に入り、ベランダに出ると、下にはジャングルのように青々と茂った庭が見え、その陰にプールが青く光り、遠くには地中海が見えて、時たま大きなフェリーが見えた。家の前の通りのナポリの喧騒からは想像もつかないような豪華で同時に落ち着いた空間だった。
これは多分イタリアとフランスの大きな違いだと思う。例えばパリでは街を歩いていて外から見て大体中の様子が想像できる。例えばアヴェニュー・ヴィクトル・ユゴーやアヴェニュー・フォッシュ、トロカデロとかの辺りの家がどこもすごく豪華なのは外から見れば分かる。あの辺りの坂をチャリで上るたびに、「すごいなぁ」と中の様子を伺ったものだ。
一方イタリアではそれが外からでは全然分からない。ミラノやナポリといった大きな都市では、建築的にも平凡で壁も排気ガスで汚れきった建物の中に、ゴージャスな別世界が広がっているというのはよくあることだ。
今回の依頼の家のオーナーはとても感じの良い中年のゲイのカップルで、何かと私たちによくしてくれた。また家にはクマールという執事がいて、彼はスリランカ人だけど英語もイタリア語も完璧で、彼の気遣いのおかげで私たちは本当に気持ちよく仕事ができた。むしろ彼に甘やかされていたと言っていい。これまで沢山のお手伝いさんを見たけれど、クマールほど完璧で優秀な執事は見たことがない。疲れてきたらジェラートを持ってきてくれたり、コーヒーを入れてくれたり、小まめに世話をやいてくれた。また昼ご飯はいつも彼が作ってくれていたのだけれど、料理の上手いこと!なんだかんだで私たちはすっかり仲良くなった。
また、今回はピーターと2人きりだったので、仕事も気持ちよくできた上に、夜は食事やパーティーに呼ばれることもなく、ゆっくりできたのが良かった。毎晩仕事後にビールを飲みながら、ご飯を食べながら、いろんな話を聞いた。
オノ・ヨーコとジョン・レノンが出会ったギャラリーのオーナーの逸話、私の憧れているあるアーティストが人間的に横暴だという話を聞いて少しガッカリしたり、別の有名なアーティストの見た目の気持ち悪さの話に笑ったり、アーティスト達の愛人問題に興味津々だったり、ある大手のギャラリーがやっていたかなり酷いアートビジネスの話に唸ったり、いろいろ。ピーターが実際に出会った人たちの話だけれど、どのアーティストも有名すぎてほとんどワイドショーみたいだった。
4日目にデイヴィッドも少しだけロンドンからやってきた。私たちの仕事には彼もだいぶ満足したようで、デイヴィッドの喜んだ顔を見て私もほっとした。デイヴィッドは仕上げのコーティングを一緒にしたら、翌朝早くニースの美術館での打ち合わせに飛んでいってしまった。
5日目は午前中で全ての片付けと掃除を済ませ、挨拶を済ませる。家の主人達がナポリの思い出にとマリネッラ・ナポリのシルバーのアクセサリーをプレゼントしてくれた。ちなみにピーターは同じ店の腕時計を貰っていた。
それからアルフォンソのギャラリーを見に行った。思ったより小さくて、でも自然光が素晴らしい、なかなか良いギャラリーだった。それから時間もあるので観光でもと思っていたのだけれど、暑さと疲れで私はダウンしてしまいそのままホテルに戻って寝ていた。結局ナポリはほとんど見ていないけれど、それでもナポリは面白かった。
Add comment 2008年7月26日


